なぜ社内の業務指示はすれ違うのか?文法は正しいのに伝わらない理由

社内コミュニケーション

「丁寧に、正しい日本語で指示を出したはずなのに、部下から全く違うアウトプットが上がってきた」
「言った・言わないの不毛なトラブルが、社内のあちこちで頻繁に起きている」

組織の規模が大きくなるにつれ、人事担当者や管理職、経営陣を悩ませるのが「社内のミスコミュニケーション対策」です。

多くの企業では、これを解決するために「もっと具体的に指示を出そう」「結論ファーストで話そう」といった、いわゆる『話し方・伝え方のテクニック』の座学研修を導入します。

しかし、どれだけ正しい文法で、論理的に話したとしても、すれ違いが一向に減らないのはなぜでしょうか。

実は、ミスコミュニケーションの根本原因は、話し手のスキル不足ではありません。哲学者ウィトゲンシュタインが提唱した「シュプラッハ・シュピール(Sprachspiel=言語ゲーム)」という概念を紐解くと、私たちが組織の中で陥っている「すれ違いの正体」、そしてそれを解決するべき本当の方法が見えてきます。

目次

伝えるための前提条件:「シュプラッハ・シュピール」とは何か?

オーストリア出身の哲学者ウィトゲンシュタインは、言葉の持つ意味を「言葉とは、ある一定のルール(文脈や前提条件)に基づいて行われるゲームのようなものである」とし、これをドイツ語で「シュプラッハ・シュピール」と呼びました。

例えば、サッカーの「手を使ってはいけない」というルールを共有しているからこそ、「パスを出す」という行動が意味を持ち、ゲームが成立します。もし、一人だけバスケットボールのルールで動いている人がいれば、どれだけ華麗にボールをキャッチしたところで、その場では「反則(エラー)」になります。

これは、ビジネスのコミュニケーションでも全く同じです。

言葉が伝わる前提条件:正しい日本語(文法)を使っているかどうかではなく、話し手と聞き手が「今、同じルールのゲームに参加しているか(前提条件が揃っているか)」が肝になる。

「文法は正しいのに伝わらない」とき、社内では「サッカー場の中で、一方がサッカー、もう一方がバスケのルールで会話している」ような、根本的なズレが起きているのです。

たとえば、バスケのルールで話している上司が、「手があいてるんだから使えばいいじゃないか。その方が効率がいいだろう!」と指示を出しているようなものです。 サッカーのルールで動いている部下からすれば、「手を使ったら一発でハンド(反則)だし、試合が壊れてしまう……」と困惑するしかありません。しかし上司側は「なぜ言われた通りにやらないんだ、効率の悪い奴だ」と本気でイライラしている。

お互いに使っている日本語は100%正しいのに、前提にあるルールが違うだけで、これほどの致命的なすれ違いが生まれてしまうのです。

バスケットとサッカー

なぜ社内で「見ている世界」が異なってしまうのか

業務指示がすれ違うとき、上司と部下、あるいは部署間では、それぞれが「見ている世界(背景にあるルール)」が全く異なっています。

「なる早で」という言葉のルール違い

  • 上司のルール: 「なる早」=「今日の夕方17時までに(それが当たり前)」
  • 部下のルール: 「なる早」=「現在抱えているタスクが終わり次第、明日中までに」

日本語としては双方とも正しく理解していますが、時間感覚という「前提条件」が揃っていないため、夕方になって「まだできていないのか」という衝突が生まれます。

「顧客目線」という言葉のルール違い

  • 管理職のルール: 「顧客目線」=「長期的なLTV(顧客生涯価値)を高めるための施策」
  • 現場メンバーのルール: 「顧客目線」=「目の前のお客様の要望をすべて叶えること」

同じ「顧客のために」という言葉を使いながらも、見ているタイムスパンや世界の広さが異なるため、業務の優先順位でミスコミュニケーションが発生します。

このように、役職、経験値、所属部署によって、一人ひとりが持っている「世界のルール」は異なります。「自分の普通(ルール)は、相手にとっても普通である」という思い込みこそが、ミスコミュニケーションの最大の原因なのです。

机上の座学では「見ている世界」を一致させられない

多くのミスコミュニケーション対策研修が失敗に終わるのは、ロジカルシンキングやテンプレート(話し方の型)といった「座学の知識」だけを頭に詰め込もうとするからです。

しかし、シュプラッハ・シュピールのルールは「頭での理解」だけでは絶対に一致しません。

ここで重要なのは、原語である「シュピール(Spiel)」という言葉には、言語ゲームの『ゲーム』という意味だけでなく、『演劇・演技』『遊び(Play)』という意味も含まれているという点です。

ゲームのルールを覚えるとき、教科書を黙読するだけで体得できる人はいません。実際に体を動かし、失敗し、他者と関わり合う「プレイ(体験)」を通して初めて、私たちはそのルールの本質を身体感覚として理解します。

社内のすれ違いを根本から解決するためには、机の上でペンを握る座学ではなく、まさに「シュピール(演劇的ワークショップ)」を通して、「あ、自分と相手は、今違うルールのゲームをしているんだ」という衝撃をリアルに体感するプロセスが絶対に欠かせないのです。

コミュニケーション研修の様子
大阪産業創造館で開催した、コミュニケーションワークショップの様子

まとめ:演劇的ワークで「共通のルール」をその場に構築する

社内のミスコミュニケーションを本気でなくす対策とは、言葉のスキルを磨くことではなく、「その場で、お互いの前提条件(ルール)をすり合わせ、共通言語を構築する力を養うこと」です。

「シュプラノート」の屋号は、この「シュプラッハ・シュピール」に由来しています。言葉(シュプラッハ)のズレを、演劇や遊び(シュピール)の要素を取り入れた体験型ワークで紐解き、組織のノートに新しい共通言語を書き加えていく。それこそが、私たちの使命です。

シュプラノートでは、一般的な座学主体の研修とは一線を画す、「演劇的手法を取り入れた 体験型コミュニケーション研修」を提供しています。

シュプラノートの「企業向けコミュニケーション研修」の特徴

  • 「見ている世界の違い」をシュピール(演劇)で体感する: 演劇の要素や即興ワークを取り入れることで、言葉の裏にある「前提条件のズレ」を、楽しみながらも強烈に体感します。※セリフを覚えたり演技をしたりすることはありません
  • 頭ではなく「身体感覚」で落とし込む: 客観的に自分たちのコミュニケーションの癖を捉え、「どう伝えれば相手のルールに響くのか」をワークショップの実践を通して学びます。
  • 組織に「共通言語」が生まれる: 研修を通じて、メンバー間で「あ、今の指示はルールがズレていたね」と建設的に指摘し合えるような、組織独自の新しい共通ルールが構築されます。

「研修をやっても現場の行動が変わらない」「指示が通らないストレスを組織からなくしたい」とお悩みの人事・経営層の皆様。

言葉の文法を正す机上の空論ではなく、組織の「シュプラッハ・シュピール(ゲームのルール)」を一致させる体験型アプローチを、ぜひ社内に取り入れてみませんか。

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