印象はどうやってつくられる? 自分では気づきにくい「自己呈示」を考える

印象はどうやって作られる

「ちゃんとしようと思って行動したのに、なぜか相手には違う受け取られ方をしていた」「そんなつもりではなかったのに、冷たい人だと思われていた」。こうした経験は、多くの人にあるのではないでしょうか。

「自己呈示」という言葉を聞くと、自分をよく見せるための意識的な振る舞いを思い浮かべる人が多いかもしれません。しかし実際には、特に意識していない日常の言葉や行動からも、相手はその人について何らかの印象を形成しています。

今回は、この「自己呈示」と「印象形成」の間にあるズレについて考えてみます。

目次

自己呈示は「自分をよく見せること」だけではない

自己呈示というと、自分の実績をアピールする、SNSで自分を演出する、面接で自分を売り込むといった、意識的な自己PRがまずイメージされます。もちろんこれらも自己呈示の一種です。

しかし、自己呈示という概念が指す範囲はもっと広いものです。本人に「自分をこう見せよう」という自覚がなくても、言葉の選び方、連絡の仕方、質問の仕方といった何気ない行動を通して、相手はその人について何らかの印象を形成していきます。これを印象形成と呼びます。つまり自己呈示と印象形成は、発信する側と受け取る側という、同じ出来事の表と裏の関係にあると言えます。

印象形成

「そんなつもりではなかった」のに、印象がつくられる

ここで押さえておきたいのは、本人の意図と、相手が形成する印象は、必ずしも一致しないということです。

本人には本人なりの事情や考えがあります。しかし相手は、その事情のすべてを知っているわけではありません。相手が手にしているのは、本人が実際に発した言葉や、実際に取った行動だけです。相手はその限られた情報から、その人がどういう人なのかを推測し、意味づけをしています。だからこそ、本人の意図と、相手が受け取った印象のあいだには、ズレが生じる余地が常にあります。

このズレは、どちらかが悪いという話ではありません。仕組みとして起こりうる、というだけのことです。以下、具体的な場面で見ていきます。

「行くと言ったのに連絡がない」から受ける印象

たとえば、セミナーへの参加を伝えていたものの、都合がつかなくなり、特に連絡をしないままになったとします。

本人としては、「忙しかっただけ」「悪気があったわけではない」「また機会があれば参加すればいい」という程度の認識かもしれません。しかし相手側は、その事情を知りません。相手が手にしているのは「参加すると言っていたのに来なかった」「連絡もなかった」という事実だけです。ここから、「約束をしても来ない人かもしれない」「連絡をしない人なのかもしれない」という印象が形成されることがあります。

これは、連絡をしなかった人が「悪い人」だという話ではありません。相手は本人の事情を知らないまま、手元にある情報だけで意味づけをせざるを得ない、という構造の問題です。

坂本麻紀

無料で参加できるものは軽くとらえてドタキャンする人がいますが、それで印象が決まるのです。

「ただ質問しただけ」でも、印象は形成される

セミナーや講義の場で、話の主旨とは少しずれた質問をする場面もよくあります。

質問した本人としては、「自分が気になったことを聞いただけ」「講義の内容とは別に、単純に知りたかった」というつもりかもしれません。特別な意図はなく、むしろ積極的な姿勢の表れであることもあります。

一方で、講師や周囲の参加者からは、「今の説明を聞いていなかったのでは」「講義の主旨を理解できていないのでは」という印象につながることがあります。ここでも、質問した本人の意図と、その質問から周囲が受け取る印象は、別のところで動いています。「質問力がない」という結論に飛びつく前に、まずこのズレの構造を知っておくことには意味があります。

「専門用語を使っただけ」が別の印象になることもある

専門的な言葉を使って説明することについても、同じ構造が見られます。

専門用語を使う側には、正確に伝えたい、専門性を示したい、簡潔に表現したいといった、それぞれ合理的な理由があります。話をわかりやすくするための、いわば近道として専門用語を選ぶこともあるでしょう。

しかし受け手にとっては、必ずしもそう受け取られるとは限りません。「難しくてよくわからない」と感じることもあれば、「自分を賢く見せようとしているのでは」という印象につながることもあります。発信者が意図した自己呈示(「正確に、専門的に伝えたい」)と、受け手が実際に形成した印象(「難しくして自分を大きく見せたいのでは」)は、同じ言葉から出発していても、行き着く先が違うことがあるのです。

専門用語を使って話す男性

自己呈示で大切なのは「どう見せるか」だけではない

ここまで見てきたように、自己呈示とは、自分がどう見せたいかを一方的にコントロールできるものではありません。相手が何を手がかりに、どのような文脈でその言葉や行動を解釈するかによって、形成される印象は変わってきます。

同じ行動であっても、相手との関係性や、その場の状況によって、受け取られ方は違ってきます。だからこそ、「好印象をつくるテクニック」を集めることよりも、「自分の意図と相手の受け取りが、常に一致するとは限らない」ということ自体を知っておくほうが、実は役に立つ場面が多いのではないでしょうか。

→文脈理解・コミュニケーション研修について

まとめ

印象は、自分が説明した自己像だけでつくられるわけではありません。言葉や行動、そしてそれが置かれた文脈から、相手はその人について何らかの意味づけをしています。

「そんなつもりではなかった」という本人の事情と、「こう見えた」という相手の印象は、別々のところで動いている。この前提を持っておくだけでも、思わぬ誤解に対する見方は変わってくるはずです。

コミュニケーションのズレは、本人の伝え方だけでなく、相手がどのような文脈で言葉や行動を解釈するかによっても生まれます。シュプラノートでは、こうした認知と言語のズレに着目した企業・団体向けの研修・セミナーを行っています。

→研修メニューページはこちら

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この記事を書いた人

約10年の舞台役者・ダンサーとしての経験と、コミュニケーション講師としての経験をもとに、認知言語学・自己呈示理論をベースにした企業向けコミュニケーション研修「シュプラノート」を主宰。話し手と聞き手の間に生まれる“ズレ”を言語化し、組織のコミュニケーションの質を底上げする研修を提供している。「表現コミュニケーション開発協会」共同代表。著書に「やばい」は思考停止か、それとも才能か(自著)ほか、共著2冊。TOKYO MXのビジネス情報番組にも出演。

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