セミナーに参加すると、開始前のスクリーンに講師のプロフィールが「Speaker(スピーカー)」と表記されているのを見かけます。これ自体は間違いではありませんが、この一言をきっかけに、「講師はスピーカーではなく、パフォーマーであるべきだ」という考えに改めて行き着きました。これは、私自身が10年ほど役者を続けてきたことと、講師としても10年以上、マンツーマンから大人数の前に立って指導してきた実体験に基づく内容です。
「スピーカー」とは何か
そもそも「スピーカー」とはどういう言葉なのでしょうか。「話す」を意味する英単語には、それぞれ次のようなニュアンスの違いがあります。
- speak:「言う」。聞き手を必要とせず、話す「行為」に焦点が置かれる
- say:「発言する」。聞き手を必要とせず、話す「内容」に焦点が置かれる
- talk:「話し合う」。聞き手を必要とし、話す「行為」に焦点が置かれる
- tell:「伝える」。聞き手を必要とし、話す「内容」に焦点が置かれる
「スピーカー(speaker)」の語源である“speak”は、本来聞き手を必要としない言葉です。商業施設のアナウンスのように、「誰が話すか」は問題ではなく、「聞き取りやすく伝えること」だけが重視される場面がこれにあたります。朝から夕方まで複数の講師が入れ替わるような大規模な会場では、このスタイルで十分な場もあります。
なぜ講師は「パフォーマー」であるべきか
パフォーマーとは、表現者のことです。私が考える講師(人前で話す人)のあるべき姿は、スピーカーではなく、パフォーマーです。イメージとしては、TEDのように、価値のある話を大勢の前でたった一人がステージ上で語るスタイルです。スライド資料を使うこともありますが、話し手の身振り手振りや表情が聴衆を惹きつけている様子は、映像からもよく伝わってきます。
情報の中身だけで勝負する時代は終わりました。同じ情報であれば、資金力のある団体や実績豊富な先人にはどうしても敵いません。しかし聞き手の立場になって考えると、情報の中身だけで満足することはなく、わかりやすく工夫してくれているか、こちらを見てくれているか、わかりにくそうな顔をしたら臨機応変に表現を変えてくれるか、といった部分まで見ています。場の空気を読んで「ここだけの話ですが」という一言をもらえるのも、ライブならではの体験です。こうした人間味あふれる講師には、「また話を聞きたい」と思わせる力があります。

上手いセミナー講師は、演技力で世界観をつくる
役者の演技が素晴らしければ観客を前のめりにさせるように、人前で話す人が演技力を身につけると、聞き手を巻き込むことができます。講師の話に受講者が集中して聞き入り、いつの間にか心まで揺さぶられている、という状況が起きます。
講師はエビデンスや実績を伝えることで説得力を持たせますが、演技力があれば、まだ実績のない若い講師でも十分に聞き手を引き込むことができます。舞台の上で現実にあり得ない世界を再現しても、観客はまるで自分も疑似体験しているかのようにその空間を共有します。大きな舞台でそれが可能なら、セミナー会場ほどの空間で、講師が世界観をつくり、受講者を巻き込むことは決して難しくありません。
演技とは、本当は何をすることか
演技という言葉には、表面をなぞるようなイメージがあるかもしれませんが、そうではありません。役者が泣いているとき、それは泣く真似をしているのではなく、本当にその人が泣いているのです。悲しくて泣いているなら、その瞬間は本当に悲しい気持ちになっていますし、悔し涙であれば、本当に悔しい気持ちで胸がいっぱいになっています。
その場に生きている人物として存在しているからこそ、リアルな感情が湧き、本物の涙が流れます。演技とは「嘘の真似をする」ことではなく、本当にその人物になりきることなのです。
講師が演じるべき人物とは、あなた自身である
では、講師はどんな人物を演じるのかというと、家でくつろいでいるあなたでも、趣味に没頭しているあなたでもなく、専門的な情報を受講者のために精一杯届けたいという熱い想いを持っているあなた自身です。他人を演じる必要はありません。
これは、まさに「自分がどうありたいか」を意図的に選び取り、体現するという、自己呈示の実践そのものです。原稿やスライドが用意されていたとして、「他の方に代わってもらってもよろしいでしょうか」と聞かれたら、答えは「NO」のはずです。あなただからこそ伝えられることがあり、あなたが自分で伝えたいという思いがあるからです。
これまでに何度も開催したセミナーであっても、その都度新鮮な気持ちで取り組んでください。リピートしているのは講師であって、受講者にとってはその都度が”初めて”だからです。
講師のエネルギーが、受講者の行動を変える
人前で話すとき、頭をフル回転させながらしゃべっていると思いますが、頭だけでなく、心も使ってみてほしいのです。これまで見てきた光景や、学びを通して腑に落ちた瞬間の感覚をありありと思い出し、その感動を言葉としてだけでなく、全身で表現するのです。
「全身で表現する」というと身振り手振りを増やすイメージを持たれるかもしれませんが、意識的に手を動かそうとするのではなく、「伝えたい、届けたい」という思いが強くなると、そのエネルギーは自然と全身から出てきます。ただし、これには一つ前提があります。それは、自分の殻に閉じこもっていないことです。今回が初めてだから、まだ実績が少ないから、といった殻は取っ払いましょう。
講師から放たれるエネルギーが会場いっぱいに届くからこそ、「面白いセミナーだった」「またこの先生の話を聞きたい」と受講者の心が動き、「早速実践してみよう」という行動の変化につながります。
役者は演技中、その人物になりきっている自分と、それを客観的に見ている自分が同時に存在しています。講師に置き換えれば、専門的な内容を情熱的に伝える自分と、時間配分を意識する冷静な自分が同時にいる状態です。舞台役者が客席の反応を敏感にキャッチするように、講師も話を進めながら受講者の反応をキャッチします。「わかりますか」と問わなくても、「わかりにくそうにしているな」と察知し、言い方を変える瞬発力を備えておきたいところです。

セミナー設計にも、伝え方の視点を
セミナーを行うことになったら、内容そのものだけでなく、それをどう伝えるかという設計(デザイン)も欠かせません。当日の流れに応じて、時間が余れば話を足す、逆に押していればカットする、といった臨機応変な判断ができるよう準備しておくと、なお良いでしょう。
坂本麻紀そもそもセミナーは、「講師が知っていることを話す」ではなく、受講者の行動変容が求められます。
まとめ
「スピーカー」は、聞き手を必要としない一方向の発信を指す言葉です。一方で「パフォーマー」は、聞き手の反応を受け取りながら、その場を共につくっていく表現者です。
講師として話すのであれば、大切なのは大きな声で話すことだけではありません。受講者の心が動き、それに伴って行動が変わる——それこそが、講師が一番望んでいる状態のはずです。「自分自身を演じる」という自己呈示の視点と、受講者の反応を捉えながら伝える力。この2つを体系的に鍛えたいとお考えの企業様・講師の方は、ぜひシュプラノートの研修メニューをご覧ください。











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